脳虚血時のTORC1-CREB経路を介した神経保護機転の解明/佐々木 勉

転写因子CREBは空間認知・記憶などの脳の高次機能において非常に重要な役割を果たすとともに、神経変性疾患、脳虚血においては、その標的因子を介した細胞生存シグナルとして機能します。CREB調節機構においては、その Ser133リン酸化が標的因子の転写開始には必要であることに加えて、CREB特異的coactivatorであるCRTC familyのうちCRTC1が脳内で高発現しています。塩誘導性キナーゼ2(SIK2)はCREBを介した遺伝子発現を抑制しています。今回我々は、大脳皮質神経細胞において、脳虚血時にはCa2+/calmodulin-dependent protein kinase(CaMK)1/4 の活性化により、SIK2が分解され、TORC1-CREBを介して下流の神経保護因子の発現を誘導する新規シグナル経路を同定しました。またこの経路は、NMDA NR2Aサブタイプ活性化、シナプス刺激時の内因性保護シグナルにおいても重要であることを示しました。

SIK2 is a key regulator for neuronal survival after ischemia via TORC1-CREB.
Sasaki T, et al. Neuron. 2011;69:106-19.

NR2A受容体の活性化はCREBシグナルを介して虚血耐性を誘導する/寺崎 泰和

脳には虚血耐性という現象があり、あらかじめ神経が死なない程度の軽微な虚血を加えておくと、その後致死的な虚血が加わっても抵抗性を獲得するため障害が軽くなる現象です。一方、グルタミン酸受容体であるNMDA受容体が脳虚血を含む中枢神経疾患の病態に関与していることから、その阻害剤が脳梗塞治療に応用されてきましたが、よい結果が得られませんでした。その原因は多岐にわたりますがその一つは、NMDA受容体サブユニットごとに神経細胞の生死に異なる関与をしていることが考えられています。虚血耐性のメカニズムの一端に迫ることで脳梗塞治療へ応用するため、NMDA受容体と転写因子CREBシグナルの関与について検討しました。
まず初代神経細胞培養系において虚血耐性現象を認めることを確認しました(下図)。
虚血耐性を誘導する軽微な虚血がCREBシグナルを活性化させ、CREBシグナルを抑制すると虚血耐性が消失することから、虚血耐性の獲得にはCREBシグナルが重要であることがわかりました。また、NVP-AAM077を用いてNMDA受容体サブユニットであるNR2Aを阻害するとCREBシグナルが抑制されて虚血耐性が消失し(下図)、シナプス刺激によるNR2A活性化がCREBシグナル活性化を介して虚血耐性を誘導することを示しました。これらから、NR2A受容体活性化から始まるCREBシグナルが虚血耐性の獲得に深く関与していることが明らかとなりました。
Activation of NR2A receptors induces ischemic tolerance through CREB signaling.

シロスタゾールは高血圧自然発症ラットにおける内皮機能を保護し虚血性脳障害を減弱する/大山 直紀

アスピリンやクロピドグレルなどの抗血小板薬は脳梗塞二次予防のfirst line薬として使われています。近年、シロスタゾールがアスピリンと同等の脳梗塞二次予防効果を示し、さらに出血性合併症については有意に抑制することがわかってきました。私たちは、シロスタゾールに抗血小板効果だけでなく血管内皮機能保護効果があるとの仮説をたて、内皮機能のマーカーの一つである内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の機能を中心に仮説の検証を行いました。以前私たちは、加齢とともに徐々に血圧が上昇する高血圧自然発症ラットにおいて、血圧上昇と並行して脳血管のeNOS機能が低下し、虚血性脳障害が増悪することを報告しました(Oyama N, et al. J Neurosci Res. 2010; 88: 2889-2898)。
そこで、血圧上昇開始時期から血圧が上昇するまでの1か月間、このラットにシロスタゾールあるいはアスピリンを混ぜた餌と何も混ぜない餌を投与し、各々のラットにおいて、脳血管におけるeNOS機能や虚血時の残存脳血流、虚血後の脳梗塞サイズを比較しました。シロスタゾールを投与したラット脳血管におけるリン酸化eNOS蛋白量は、無投薬のラットに比べて有意に増加しており、eNOS依存性の脳血流反応性も改善していました。さらに、虚血時の脳血流は明らかに増加し、虚血後の脳梗塞サイズも縮小していました。これらの効果はアスピリンには認められなかったことから、シロスタゾールが高血圧から血管内皮機能を保護することで虚血性脳障害を減弱したものと考えられました。

Cilostazol, not aspirin, reduces ischemic brain injury via endothelial protection in spontaneously hypertensive rats.
Oyama N, et al. Stroke 2011; in press.

G-CSFはマウス虚血性脳卒中モデルで側副血管の発達を促進し、虚血性脳障害を軽減する/杉山 幸生

虚血性脳血管障害において、側副血管の発達(Arteriogenesis)を促進することができれば有効な治療法となります。Granulocyte-macrophage colony-stimulating factor(GM-CSF)は、Arteriogenesisを促進し虚血性脳障害を軽減することが報告されましたが、その臨床試験は安全性に疑問を呈する結果でした。今回我々は、その他のCSFが、側副血管の発達を促進し脳保護効果を発揮するか調べました。マウスの左総頸動脈(CCA)を閉塞し(CCAO)、その直後よりG(granulocyte)-CSF、M(macrophage)-CSFあるいはGM-CSFを投与しました。結果は、G-CSFはGM-CSF同様にCCA閉塞後の脳軟膜動脈吻合の発達を促進しました(図)。またCCA閉塞後に同側の中大脳動脈を閉塞した結果、GM-CSF同様G-CSFは梗塞体積を減少しました。M-CSFにこうした効果はみられませんでした。G-CSFは、本邦では既に血液疾患の患者さんに臨床使用されていますが、脳卒中患者さんに投与しても安全であることが報告されています。G-CSFのArteriogenesis促進効果を目的とした臨床応用が期待されますが、更なる基礎実験による検討が必要と考えています。

Granulocyte Colony-Stimulating Factor Enhances Arteriogenesis and Ameliorates Cerebral Damage in a Mouse Model of Ischemic Stroke. 
Sugiyama Y, et al.  Stroke. 2011;42:770-775.

心血管病新規発症と炎症マーカーおよび頸動脈内中膜複合体肥厚の関連/岡崎 周平

近年、動脈硬化の進展に炎症が密接に関与していることが明らかになってきています(上図)。また頸動脈エコーで測定される頸動脈内膜の肥厚(IMT) が心血管病発症と強く関連していることも複数の研究で報告されています。
今回、我々は動脈硬化のハイリスク患者において心血管病発症と炎症マーカーおよびIMTの関連について検討しました。我々が2001年より行っている前向きコホート研究であるOSACA2(The Osaka Follow-up Study for Carotid Atherosclerosis, Part 2) Study登録患者770名を対象とし、登録時の血清高感度CRP、インターロイキン(IL)-6、IL-18および頸動脈エコーによるIMT値を測定し、心血管病(脳卒中、心筋梗塞、一過性脳虚血発作、不安定狭心症、心血管死)の新規発症について追跡調査を行いました。
平均追跡期間は4.3年で、心血管病の新規発症は104例に認められました。単変量解析では全ての炎症マーカーで心血管病発症との関連が認められましたが、既知の動脈硬化危険因子およびIMTで補正するとIL-6のみで有意な関連が認められました(IL-6低値に対するIL-6高値の危険率1.87; 95%信頼区間 1.20-2.93)。また、IL-6とIMTを併用することで心血管病新規発症の予測能は向上しました(下図)。
今回の検討から、血清IL-6高値は動脈硬化のハイリスク患者において将来の心血管病発症の独立した危険因子であり、心血管病リスクの層別化においてIL-6とIMTの併用が有用であることが示されました。

Association of inflammatory markers and carotid intima-media thickness with the risk of cardiovascular events in high-risk patients.

脳微小出血(CMB)と血清炎症マーカーの関連について/三輪 佳織

脳微小出血(cerebral microbleeds, CMB)は頭部MRI gradient echo(GRE) T2*強調画像で認められる小さな円状の低信号であり、病理所見では小血管周囲にヘモジデリンを含んだマクロファージの集塊などが認められます。CMBは高血圧や脳卒中の患者に多く認めるだけでなく、正常高齢者にも認められ、脳小血管病(small vessel disease)のひとつと考えられています。
 一方、近年、動脈硬化の進展・破綻に炎症機序の関与が考えられ、複数の縦断研究において、血清炎症マーカーの高値は将来の心筋梗塞、脳梗塞の発症の危険予測因子であることが指摘されています。さらに、血清炎症マーカーはsmall vessel diseaseであるラクナ梗塞や白質病変との関連も指摘されていますが、これまでCMBとの関連は明らかではありませんでした。本研究では前向きコホート研究であるOSACA2の対象者の中から、脳卒中、TIAの既往歴のない無症候性患者431人を対象にCMBの有無と血清炎症マーカー(hsCRP、IL6、IL18)との関連を検討しました。CMBを認める群では、CMBを認めない群と比較して、いずれの血清炎症マーカー値も高値でした(図)。多重ロジステイック回帰分析では、hsCRP、 IL6、 IL18の各1SD上昇の変化はCMBの存在に対し、年齢、性別、動脈硬化危険因子、eGFR、無症候性ラクナ梗塞、白質病変やIMTで調節しても、有意な正の相関をみとめました(Odds比 [95%信頼区間], hsCRP:1.81 [1.35-2.46], IL-6:1.73 [1.18-2.61], IL-18:2.41 [1.44-4.52])。また部位別の検討でも、deep, lobar CMBのいずれも、各炎症マーカーと有意な関連をみとめました。この研究により、CMBにおいても炎症機転が関与していることが示唆されました。

Relations of Blood Inflammatory Marker Levels with Cerebral Microbleeds.