脳卒中の初期診療時、とくに血栓溶解療法等の超急性期治療を考える場合に大切なことは、できるだけ要領よく必要十分な検査をおこなうことです。また常に病巣診断(どこに病変があるのか)と病型診断(発症機序と臨床病型)の両方を念頭に置きながら診察を進めましょう。
- 救急隊より連絡された脳卒中簡易診断スケールと発症時間に基づいてt-PA対応(複数の医師を集める)が必要か判断する。t-PA対応と判断した場合は、この時点で専門医に連絡を入れる。
- 来院時、発症後2時間30分以内であれば、t-PA 静注投与も考慮し診療を開始する。可能であれば同時に他の医療従事者が家族への問診を行う。
- 心電図モニターとSpO2モニターを装着し、Vital sign(意識レベル、血圧、脈拍数、体温、呼吸数、酸素飽和度)および12誘導心電図をチェック。必要に応じて気道確保や酸素投与を行う。
- 大まかな神経学的評価:意識レベル、瞳孔所見およびおおよその失語・麻痺の有無を評価し、必要に応じて専門医への連絡・招集を行う。
- 末梢静脈から緊急採血を行う(血糖値, 血算, 止血(PT-INR), 肝・膵・腎機能は必須)。動脈血採血はt-PA療法の可能性を考え、できるだけ控えるようにしてください。
- 神経所見(NIHSSスコア)の評価
- 意識障害があるか障害があれば、くも膜下出血、脳出血、広範な脳梗塞を疑います。
- 皮質症状があるか:皮質症状があれば、ラクナ梗塞は否定的です。
- 脳幹症状があるか: 眼球運動異常、複視、めまい、聴力異常などがあれば脳幹の障害を疑います。
- 症状の組み合わせで病巣をある程度推測することが可能です。
- 一般身体所見の評価
- 頚部・眼窩部・鎖骨部の血管雑音の有無:血管雑音があれば、アテローム血栓性を疑います。
- 血圧左右差の有無:血圧の左右差は忘れがちですが動脈解離を疑うきっかけとなる重要な所見です。必ず測定しましょう。
- 不整脈の有無:心房細動があれば心原性脳塞栓の可能性が大きくなります。
- 心雑音は必ずチェック:弁膜症や感染性心内膜炎を疑うきっかけとなります。
- 下腿浮腫の有無:片側性なら深部静脈血栓症や奇異性脳塞栓も疑います。
- 速やかにCTを施行し、脳出血などの出血性疾患を鑑別し、脳梗塞(early CT sign)の有無を判別する。
- 胸部レントゲンを撮影。胸部Xpは肺炎などの肺疾患、大動脈病変(特に大動脈解離)、心疾患などの多くの病態の鑑別に有用です。撮影できるタイミングは施設によって異なると思いますが、必ず撮影するようにしましょう。
- 脳梗塞が疑われる場合は、血管病変の精査も直ちに行う。
- 頸動脈エコー、経頭蓋超音波検査、心エコーなど。
- CTAを行う場合は、大動脈解離も併せて鑑別する。
- 超急性期脳梗塞でペナンブラの評価が必要な場合は、MRI撮影を考慮する。
- DWI, FLAIR, MRAは必須で行う。可能ならPerfusion imageも撮影。時間的な余裕があればT2*, T1,T2も撮像する。
- 以上の診察、検査所見を参考に臨床病型や発症機序を鑑別し、治療を行う。
- t-PA静注療法適応時はエコーやMRIの検査はできるかぎり短時間で行うか省いてもかまいませんが、少なくとも大動脈解離の鑑別は必要です。

- tPA静注療法適応外の場合でペナンブラ領域が存在し、ADLに影響を与える症状が残っているならば、緊急の血管内治療による血行再建も考慮します。