若年者の脳卒中

若年者の脳卒中の病因

若年者の脳卒中は頻度としては少ないものの、発症後長期にわたって後遺障害を残すため、患者や家族にとって大きな負担となり、就業等の社会生活においても問題となることが多い疾患です。また高齢者の脳血管障害とは異なり、若年者では血液凝固異常症や血管奇形など多くの特殊な原因があるため、その診断・治療においては専門的な知識と経験を要します。下に示すようにさまざまな疾患が鑑別にあがりますが、その中でも比較的頻度が高く重要と思われる疾患について簡単に説明します。


奇異性脳塞栓症

奇異性脳塞栓症とは静脈系でできた血栓が、卵円孔開存や肺動静脈瘻などの右左シャントを通って左心系に流れこみ脳梗塞を生じる病態です。なかでも卵円孔開存は正常成人の10~18%に認める頻度の多い疾患であり、奇異性脳塞栓症の原因として注目されています。正常では左房圧が右房圧よりも高いため卵円孔開存があっても右左シャントは生じませんが、重たい荷物を持ち上げたときやスポーツ、排便、性交などの負荷がかかったときに一時的に右房圧が上昇し、右左シャントが生じます。この際に血栓が右心系から左心系に移動し脳循環に入ると脳塞栓症を引き起こします。右左シャントの診断には通常の心エコー検査では難しい場合が多く、経食道心エコーや経頭蓋超音波検査などによって行います。

血液凝固異常症による脳梗塞

血液凝固異常症は若年者の脳梗塞や原因不明の脳梗塞において比較的高頻度に認められる病態です。このうち抗リン脂質抗体症候群は最も頻度が高く、全身の動脈・静脈血栓と流産などの妊娠異常がみられます。実際の臨床では血栓症や流産の既往、APTTの軽度延長があった場合に本疾患を疑うきっかけとなります。確定診断にはβ2GPI抗体価が有用とされています。次に多い凝固阻止因子欠乏症は血液凝固を阻止する蛋白が欠乏するために凝固系が亢進し血栓症を生じる病態であり、アンチトロンビンⅢ欠乏症、プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症などがあります。
これらの血液凝固異常症の多くは血液検査によって判明することが多いため、原因不明の若年者脳卒中を見た際にはまずこれらの疾患を疑うことが重要です。なおプロテインCやプロテインSの測定値はワーファリンなどの抗凝固療法の影響を受けるため注意が必要です。

脳動脈解離

脳動脈解離には解離により血管が狭窄または閉塞することで脳梗塞となる症例と、くも膜下出血となる症例があり、両方を併発する場合もあります。原因は不明の場合も多いですが、Marfan症候群などの基礎疾患を有する場合や、交通事故などの外傷やゴルフなどのスポーツ、カイロプラクティックによる頸部の回転が原因となる例もあります。症例の約7割は発症時に解離側のくびやあたまに激しい痛みを訴えるため、診断のきっかけとなります。
 診断は脳血管撮影やMRAでPearl and string signやstring signと呼ばれる血管の拡張・狭窄を証明することによります。

脳動静脈奇形

脳動静脈奇形(AVM)による頭蓋内出血の好発年齢は30歳代と低く、若年者の出血性脳血管障害の代表的な疾患です。AVMの約40%はてんかんで発見されます。AVMの出血率は約2-6%/年程度と比較的高率であり、若年者では初回発作時に的確にAVMの診断をつけられるかが再発予防の鍵となります。しなしながらCTのみでは診断が困難な例も多く、MRIやMRA、脳血管撮影等の検査を行い、流入動脈、nidus、流出静脈の有無を調べることが重要です。 

若年者脳卒中の鑑別診断

  • 心疾患 
    先天性心奇形、不整脈(心房細動)、弁膜症、感染性心内膜炎
    心房中隔瘤・心室瘤、心筋症、左房粘液腫、奇異性脳塞栓症
  • 血管炎 
    大動脈炎症候群、ANCA関連血管炎
    膠原病(SLE、PNなど)、側頭動脈炎、感染性血管炎
  • 血液凝固異常症 
    抗リン脂質抗体症候群、凝固阻止因子欠乏症
    DIC、Trousseau症候群、ホモシスチン尿症、ホモシステイン血症
    血栓性血小板減少性紫斑病、ヘパリン誘発性血小板減少症
    白血病、骨髄増殖性疾患
  • 脳動脈瘤 
  • 動脈解離 
  • もやもや病 
  • 脳動静脈奇形 
  • 海綿状血管腫 
  • 脳静脈血栓症 
  • 結合組織異常
        Marfan症候群、Ehlers-Danlous症候群、多嚢胞性腎症
        弾性線維性偽性黄色腫、線維筋形成不全 (FMD)
  • その他の遺伝性素因
        CADASIL、CADASIL plus、MELAS、Fabry病
  • 妊娠・周産期 
  • 経口避妊薬 
  • 片頭痛 
  • 外傷・機械的圧迫 
  • 空気塞栓・医原性塞栓