脳梗塞の分類

NINDSIIIによる脳梗塞分類

脳梗塞の分類には1990年に米国のNINDS(National Institute of Neurological Disorders and Stroke)が発表した分類(NINDS III)が広く用いられています。NINDS IIIでは脳梗塞の発症機序と臨床病型を分け、その組み合わせで病型診断を行うことを提唱しています。
たとえば動脈硬化による頸動脈プラーク(粥腫)があり、そこからはがれた血栓が遠位の中大脳動脈を閉塞した場合、”塞栓性機序によるアテローム血栓性脳梗塞”などと表現します。一方、中大脳動脈自体に強い動脈硬化があり、プラーク破裂等により狭窄部が閉塞して脳梗塞となった場合、”血栓性機序によるアテローム血栓性脳梗塞”と表現します。 基本的に心原性脳塞栓症はすべて塞栓性機序によるものですが、アテローム血栓性脳梗塞については血栓性、塞栓性、血行力学性のいずれの機序でも起こりえます。ラクナ梗塞についても、穿通枝の脂肪硝子変性にくわえて主幹動脈粥腫の進展や微小血栓による機序も考えられており、いずれの機序でも起こりうるといえます。 

脳梗塞の機序分類

血栓性(thrombotic)

動脈硬化性病変の狭窄度が徐々に進行し、最終的に血栓により閉塞する病態です。不安定プラークの破綻により急性閉塞をきたす場合もあります。症状は緩徐完成、進行、動揺することが多いとされています。 

塞栓性(embolic)

近位部(塞栓源)から塞栓子がはがれ、遠位部の脳動脈に流入し急性閉塞する病態です。症状は突発的に発症することがほとんどです。 

血行力学性(hemodynamic)

梗塞巣への灌流動脈の近位部に閉塞・高度狭窄があるものの、普段は症状がでない程度の脳血流が残っている状態(misery perfusion)があり、血圧低下、脱水、貧血、低酸素血症が生じた時に最も血流の届きにくい部分が虚血/梗塞に陥る病態です。同じ症状のTIAの既往がある場合が多いです。 

脳梗塞の臨床病型分類

アテローム血栓性脳梗塞(atherothrombotic) 

  • 主幹脳動脈の狭窄(50%以上)もしくは閉塞による皮質枝領域梗塞が典型的であり、小脳梗塞や脳幹梗塞も含まれます。 
  • 主幹脳動脈の狭窄・閉塞による大きめの穿通枝梗塞(Giant lacuna)や,アテローム硬化による主幹脳動脈狭窄・閉塞による血行力学的な梗塞も含まれます。 
  • 頸動脈アテローム硬化性病変等からの血管原性塞栓(artery to artery embolism)もこれに分類され、 皮質枝領域の小梗塞を時に多発性に認めます。 

心原性脳塞栓(cardioembolic) 

  • 塞栓源として、心房細動、急性心筋梗塞、拡張型心筋症、人工弁などを基礎疾患として左心耳、左心房、左心室に壁在血栓を認めるか、または粘液腫、疣贅(ゆうぜい:感染性心内膜炎による細菌性のこぶ)を認める症例で、通常皮質を含んだ大梗塞を生じます。
  • 塞栓源に血栓が確認されなくても、上記の基礎疾患や発症様式(突発発症)、臨床症候(意識障害、皮質症状など)、画像診断(中大脳動脈皮質枝レベルの大きさの梗塞)等で心原性脳塞栓が強く疑われる場合もこの分類に含まれます。 
  • 皮質枝梗塞で血管閉塞がみとめられず、すでに再開通していると考えられる場合、また出血性梗塞を認める場合は心原性脳塞栓が強く疑われます。 
  • 深部静脈血栓症からの奇異性脳塞栓(卵円孔開存)もこの分類に入ります。 

ラクナ梗塞(lacunar)

  • 細動脈硬化に起因する1.5cm以下の穿通枝領域の小梗塞を原則とします。
  • 複数の穿通枝が主幹脳動脈の狭窄・閉塞によって閉塞し、大きめの穿通枝梗塞(Giant lacuna)を生じていることが明らかな場合はアテローム血栓性梗塞に分類します。 
  • 1.5cm以下であっても病変側の中大脳動脈主幹部の狭窄・閉塞が明らかな場合はアテローム血栓性梗塞に分類します。 
  • Giant lacunaで塞栓源が明らかであり、発症型からも脳塞栓と考えられる例は、その塞栓源の種類により心原性脳塞栓、アテローム血栓性脳梗塞、その他の脳梗塞に分類します。 

Branch atheromatous disease (BAD) 

  • 脳血管造影(MRA)上病変部の主幹動脈に50%以上の狭窄がなく、主幹動脈に対して垂直方向に長い(1.5cm以上)穿通枝梗塞です。
  • 脳幹梗塞で椎骨脳底動脈に狭窄がなく橋, 中脳底部に接した縦長の穿通枝梗塞も含まれます。 
  • 穿通枝起始部の小さなアテロームによる狭窄・閉塞によるとされています(症状は進行することが多く、治療抵抗性でなかなか進行が止められないこともしばしば経験します)。 
  • その他の脳梗塞もしくはBADとして区別して分類するほうが治療・予後を考える上で有用です。 

その他(other) 

  • 大動脈原性脳塞栓:上行大動脈から弓部の粥状硬化巣や解離からの塞栓症で、皮質枝領域の小梗塞で発症することが多く、多発性の場合もあります。経食道エコー、CT angiography、MRAで大動脈病変を鑑別します。
  • その他、さまざまな原因による脳梗塞がこの分類に含まれますが、そのほとんどは若年性脳梗塞の鑑別に重要な疾患です。詳細については若年者の脳卒中を参照してください。 

何のために分類するのか

発症機序鑑別の意義 

症状出現に血行力学的要素が多く関わっている場合、安易な頭部挙上で症状が進行する場合があり注意が必要です。頭蓋内外動脈バイパス術や頚動脈内膜剥離術(CEA)、頚動脈ステント留置術(CAS)、頭蓋内動脈血管形成術など外科的処置も考慮されます。一方塞栓性機序の場合、急性期から慢性期にわたって塞栓源の厳格なコントロールが求められます。 

臨床病型鑑別の意義 

臨床病型ごとに治療法が異なり、心原性脳塞栓、アテローム血栓性脳梗塞、Branch atheromatous disease(BAD)の場合は、重症脳梗塞への進展や、脳梗塞の再発、症状の進行の危険があるため、入院早期、できれば数時間以内に鑑別することが重要です。